【第1回】 日々、田舎のワイナリーで

甲斐ワイナリー
風間 聡一郎

4月、山梨では桜も桃もいっせいに咲き競う季節を迎えました。
皆様はじめまして。甲斐ワイナリーの風間聡一郎と申します。

月並みですが簡単な自己紹介を。僕は1978年生まれ。ワイナリーは山梨県甲州市塩山にあり、元々は江戸時代から日本酒の造り酒屋でしたが。父の代でワインだけに切り替えをしています。酒造りの歴史は古いですが、年間30,000本という少ない生産量で自社畑は1.3ha。甲州、メルロー、バルベーラなんかを市内に点在する畑で栽培しています。働くのは僕と家族とスタッフ2名。まさに田舎の小さなワイナリーです。

なぜコラム掲載という白羽の矢が僕に突き刺さったのか定かではありませんが、これから何ヶ月かに渡り、田舎の景色を想像できるような畑のこと、ワインのこと、日々の暮らし、ワイナリーの裏側などツラツラと書き綴って行こうと思います。

2016年がスタートし、1月、2月、3月は剪定とプロモーションが仕事のメイン。特に2月、3月は毎週末が出張で家族から冷たい視線を浴びながら東京、横浜、大阪などのお得意先をまわります。毎晩よく喋り意識が薄れるまでお酒を飲みます。いいえ仕事です。

そして4月。この季節のブドウ畑は春の陽気に誘われて樹が水を吸い上げます。剪定の終わった枝の切り口からはポタポタと水が零れ、下草に緑が戻り、小鳥が枝で羽を休めます。

標高の高い畑から盆地を見下ろすと、桜や桃が辺り一面に見渡せる桃源郷。
畑仕事をしなくても、一日ぼけーっと畑で過ごすことのできる素晴らしい季節です。

しかし、今月中旬には萌芽を迎え、するするっと新梢が伸び出します。開花、結実、着色とステージは進み、秋の収穫まで休みなく世話をしなければなりません。そして最後は醸造です。

この仕事は1年に1度しか結果を残せません。今年38歳になる僕はあと30回くらいしかシーズンを過ごすことができないのです。なんとも儚い仕事ですが、なんとも形容しがたい魅力のある仕事でもあります。

著者について

甲斐ワイナリー
風間 聡一郎

伝統を活かしたワイン醸造を行う家族経営の甲斐ワイナリー3代目(酒造業としては7代目)。甲州種やメルロー、バルベーラなど専門品種を中心に個性と品位のあるワイン造りを目指し、日々、畑でワイナリーで作業に励む。時折息抜きにFBでぼやく。1978年生まれ。東京農業大学出身。