「日本におけるソーヴィニヨン・ブランの現状」

2019年3月11日 於KKRホテル東京
日本ワイナリー協会
ワークショップ 第2部レポート

「日本におけるソーヴィニヨン・ブランの現状」 
 
レポート作成:サッポロビール 岡山ワイナリー 久野 靖子様
 
【パネリスト及び試飲ワイン】(敬称略)
  • 小山英明(リュー・ド・ヴァン)
     リュー・ド・ヴァン ソーヴィニヨン・ブラン2017
  • 桜井楽生(サントリーワインインターナショナル)
 ジャパンプレミアム 津軽ソーヴィニヨン・ブラン
  • 高瀬秀樹(シャトー・メルシャン)
     椀子ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン2017
  • 戸澤一幸(シャトレーゼ・ベルフォーレワイナリー勝沼ワイナリー)
     勝沼ソーヴィニヨン・ブラン
  • 西畑徹平(マンズワイン)
     ソラリス 信州ソーヴィニヨン・ブラン2017
  • 鷹野永一(信州たかやまワイナリー)コーディネーター

【配布資料】PDF参照 

【ディスカッションの流れ】
各ワイナリーのワインをブラインドテイスティング→栽培情報→醸造情報→質疑応答
テイスティング コメントはビストロ・ミル・プランタン 五味丈美オーナー・ソムリエ
 
以下より①~⑤と社名を示し、ワインの正式名称は省略する。
また、ソーヴィニヨン・ブランについてはSBと略す。
パネラー間の質問の回答は本文中に記載し、聴衆からの質問は別途記載する。
 
*** ワインの概要及び栽培について ***

① サントリー(津軽のソーヴィニヨン・ブラン畑)

ジャパンプレミアムシリーズではブドウを購入してワインを醸造している。このSBは弘前の2軒の農家で栽培してもらっている。ワインの醸造は登美の丘ワイナリー。
畑の場所は岩木山の南。低いところで50m。高いところで標高150m。北向きの畑が30アール、東向きが30アール。垣根。土壌は火山灰。草生栽培。樹勢が強いので、ギュヨで3~4本とる。4本とっているところもまだ樹勢が強い。除葉したりしている。作業に特別なことはしていない。
ここではピノ、シャルドネ、SBをやっているが、ピノ・ノワールは難しい。3年に1度程度の醸造。魅力があるのはSB。糖度が20度超える。酸が下がりにくく、水分と窒素が多い白向きの土壌。醸造中に窒素は添加しなくてもいい。100ppm~200ppm程度になる。
青森というと寒いイメージがあるが、年間の平均気温は11度を超える。生育時期は長野の東側より暑いぐらいになる。土地としてよいので、生産者は少ないが今後力を入れていきたい。1990年ぐらいに植えた樹が中心。1本の樹から2~4㎏程度の収穫。樹間は1m間隔で植えている。2011年に新しく植えたものが収穫できるようになり2015年ぐらいから味が変わってきている。チオールを出そうとしているわけではない。果汁の窒素が十分ではあるが、栽培ではコントロールしているわけではない。草の種類にこだわっているわけでもない。自然と白ワインに向いた雨量・土壌のバランスが取れているのだと思う。果汁の窒素に関連してお伝えしたいことがある。窒素が低い理由として、樹が若くて根が浅かったり、土壌がコンパクトで根が窒息状態であったり、草との競合等が考えられる。果汁の窒素量が少なければ毎年調整するのは、重要ではあるが、高くなるよう、畑で仕事をすることが最も重要。理想は自然と十分な窒素が得られること。それが理想的なテロワールで、そういう土地のぶどうであれば、競争力、品質向上に優位と考えられる。土壌の分析はやっていない。

② マンズワイン(小諸の自社畑)

小諸ワイナリーのSB。ソラリスはマンズ・レインカットで栽培している。
2種類ある。1列でやっている平垣根のものと、H型で新梢を伸ばすものはダブル。SBについては両方採用している。今回のSBは小諸ワイナリーのすぐ下にある2反程度の畑のもの。2006年に植えた。品種園の中で試験醸造したところ、比較的いいものができたので、広げた。
ワイナリーの周りは粘土質。マンズワインではぶどう栽培には積極的に粘土質の畑を探している。赤も白もどちらもいいという年はあまりない。水分ストレスがどうかかるかでかわる。17年は赤も白もよい珍しい年だった。
かつては病害を避けるため、除葉していたが、今は自分の方針として除葉はあまりせず、フレッシュ感を残すようにしている。新梢1に対し2房。ならせ過ぎない。畑がスタートしたころ堆肥を多くいれた。その後は入れていない。30年ぐらいで抜けてきた。果汁中の窒素は100ppmを切る。土壌分析は行っているが。土を掘り返すことで土壌改善しようとしているがすぐには結果がでない。この場所は粘土質土壌なので、赤には水分ストレス、窒素ストレスの点からいいのかなと思っている。

③ リュー・ド・ヴァン(荒廃地を自社で開発したリュードヴァンの畑)

東御市にある。マンズワインの西側。椀子とは千曲川を挟んだ向かい側。
2006年に植えた。2012年には全体の40%ほど。開墾しながら植えてきた。SBの香りを目指すよりは、口の中での心地よさ、食事に合うようなことを目指して作っている。香りのプレカーサーが最大になるようにしている。元々香りの出る品種なので、熟した状態で収穫したい。
標高は740~850m。SBは790~820mの間に植えている。元々は40年前にリンゴ畑として造成された。畑の向きにばらつきがあり、入射角がそれぞれなので、除葉での光コントロールはしていない。成熟の浅いもの、よく熟しているものを混ぜている。ブレンドした際にトータルで心地よさが出ればよい。
栽培にはあまり手をかけないようにしている。ほとんど自社農園なので、手をかければ商品コストに跳ね上がる。一人当たりの栽培面積を増やしたい。除葉をしないのはその理由もある。誘引についてもテープナーで止めず、しかるべきタイミングでワイヤーの間に入れることにより自分でまきつかせている。極力機械化したい。畑が小さいので、5.9割にしか実質樹が植わっていない。コストがかかる。
土壌は強粘土。急傾斜で水はけはよい。来年以降に新しく6haの圃場を計画しており、SBは3haに植える。ここでは、ほとんどに植えることができるので、コスト構造が良くなる。将来的には3000円を切りたいと考えている。
ワイナリーとしてはシャルドネが多い。増やす品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、SB。シャルドネは仕込みのバリエーションがある。ピノはスパークリングをつくって行こうと考えているので増やす。その中でもSBを特に増やしていこうと考えている主な理由はSBの収穫は最も早く作業が分散できること。9月中旬から下旬。他の品種は9月下旬以降。先に収穫できるというのは秋雨や台風にたたかれにくいので、健全な収穫ができることが利点。芽吹きが遅く、収穫が早い。副梢の管理はしなければいけないがそれ以外は手がかからない。シャルドネに比べ、ベト病に強いという点も良い。収量は少ない。房重量は150g程度。このように育てやすいという印象なので増やす。樹間は1m間隔を来年植えるところは1m50㎝に広げて機械化を進めようとしている。
施肥は畑の傾斜を見ながらコントロールしている。最初は土壌分析していたが、区画が多すぎるので、今はやっていない。毎年伐採・伐根などをしていると、土の傾向が見えてくる。造成する前の状態によってことなってくるので、その土地に合わせる。牛糞等が必要であれば入れるし、腐葉土がたまっていれば何もしない。標高が高いとpHが高い傾向にあるので、牡蠣殻を入れて下げてやるなどのバランスはとる。古い畑はくたびれてきているので、牛糞、堆肥をやる。数値を見ているわけではない。キリがないので。果汁を見て、足りなければ足すという程度。

④ メルシャン(シャトー・メルシャン椀子ヴィンヤード)

桔梗が原に18年にワイナリーを建設、その秋から仕込みを開始した。19年には椀子にワイナリーの建設を開始した。この秋から3ワイナリー体制での日本ワイン造りを開始する。17年ヴィンテージのSBは勝沼ワイナリーで醸造した。
椀子SBは2009年から商品化。当時はチオールに注目して醸造を行っていたが、2013年に転機が訪れた。それは当時ワイン造りのアドバイスを貰っていたポール・ポンタリエさんの影響だ。椀子SBを見せた時に、このワインは未熟だという意見をもらった。その後、チオールに着目したキュヴェだけではなく、味わいに着目したキュヴェを仕込み分けている。それら2つのキュヴェをアッサンブラージュし、チオールだけではなく、ほかの香りや味わいに複雑味をもったバランスよく、エレガントなSBを目指してワイン造りを行っている。
今回テイスティング頂いたワインは、通常製品とは異なり、味わいに着目したキュヴェのみを試験的に約14か月ステンタンクで熟成させた特別なワインである。17年ヴィンテージの椀子SBは凝縮していた。寒暖差が大きく、果実の成熟がとても早かった。糖度22~23%前後、酸度8.2g/L前後で収穫した。ブドウの房がとても小ぶりとなり、収量は例年より減った。品質的に満足はしている。
椀子ヴィンヤードは全体で20haあり、その中でSBは2区画(約2ha)の植栽である。区画①(約1ha)はやや北向きの南北列で樹齢は11年、区画②(約1ha)は東西列の丘陵地で樹齢15年である。土壌は、とても固い粘土質であり、さらになだらかに傾斜があるので、水が土壌に浸み込む前に流れてしまい、水分ストレスがかかりやすい特徴がある。区画①はよく熟し、酸が柔らかくなり易い。区画②は礫も含まれているためか、酸が高く、香り豊かになりやすいという特徴が出始めている。
ヴィンテージによってはこれら2つの区画を仕込み分け、味わい区、香り区にしているが、2017年は区画で区別せず、更に細かく列毎にブドウを食味して歩き、味わい区と香り区を決めた。
栽培は特に変わったことはしておらず、酸が抜けるのを防ぐため除葉も極力しないようにしている。椀子ヴィンヤードでは特にブドウの房が小さい傾向があり、シャルドネなら1房160~180g程度だが、SBは1房130~150g。搾汁後のSB果汁の窒素量は低く、課題の1つだと思っている。窒素量が100 ppmを切ることもあるので、健全な発酵を促すため、200-250ppmを目安に窒素量を調整している。尿素などの葉面散布を試したところ、改善がみられたが、根本的な課題解決にはならないと考えている。土壌の管理や施肥のやり方を見直しているところである。

⑤ シャトレーゼ(勝沼町菱山地区の自社畑)

勝沼町菱山地区のもの。西向き急斜面。粘土と礫が混ざっている。水はけはよい。17は初めてナイトハーベストをしながらも 今までは香重視をしていたが、線が細いと思っていたので、ボリューム重視で作るようにした。酸度も大切にした。
やはりシャトレーゼも樹勢が強いので樹を見ながらギュヨをトリプルや4本にしている。除葉は少しずつしている。西を残して東側を除葉する。目的は青い香りを抜きたいというよりは健全に熟させたいので。過度にはやらないがやってはいる。
北杜市にも新しい畑をもっており、標高800mぐらいのところでSBを栽培している。成長のステージが勝沼と2週間程度異なる。勝沼で37℃ぐらいになるときに北杜は30℃ぐらい。湿度も低い。勝沼のSBとは違うものができてきている。今後は違うものができてくればと思っている。
ナイトハーベストをする。(2017年は収穫を急遽したため、警察に連絡せずナイトハーベストを行った。そのため通報された。2018年は連絡した。)

 
【栽培について質疑応答】
質問1.(シャトレーゼに対し)ナイトハーベストで劇的に変わったことは? 
シャトレーゼ戸澤:一般的には朝方3時~6時とかにやるものだが、人数が少ないので、深夜0時にスタート。成分が登り切っていない状態。ぶどう食べたときの感触で湯だった感がない。人が多ければ、涼しい4時ぐらいにやりたい。食味が違う。それを冷蔵庫に入れ、落ち着けてから仕込んでいる。果汁は果実感がある。ナイトハーベストとは違うが、冷やして絞ることで、酸化しにくい、酸化酵素が動きにくい、という効果がある。
 
質問2.(シャトレーゼに対し)自然農法か?
シャトレーゼ戸澤:普通。除草剤は使っていない。機械は入らない。
 
質問3.収穫日がサントリーは幅があるが? 
サントリー桜井:1つの生産者が10月13日から。もう1つの生産者は樹勢が強く、遅く収穫する。収穫の判断は毎週分析と味わいを見て行っている。香り等は図れないが、食べたらわかるので、毎週追っている。10月中旬は雨が多くなってくるので、最後は水準に達していれば、病気になる前に収穫している。
 
質問4.(メルシャンに対し)香り区と味わい区で2種あるが、収穫日を変えているかと思ったが、資料ではずれもない。
メルシャン高瀬:ヴィンテージによって収穫のコンセプトを変えている。収穫日を変えずとも17年は列間で熟期が違ったので、列毎に香り区、味わい区を決め、ほぼ同じタイミングで収穫した。香り区の選択は、食味で特にチオールの戻り香を感じるものを選んだ。一方で18年は17年ほど大きな品質差がなかったので、収穫日を変えた。
 
*** 醸 造 ***

① サントリー
  冷蔵トラックで青森から運んでいる。翌日着。果汁は10℃。SO2は50ppm添加。毎回ほぐすのではなく、シャンパンプレス。除梗は16年までしていなかったが、17年はプレスに入りきらなかったので、50%以上している。濁度は200~300NTU。2017年は除梗したので、高かった。200後半ぐらい。発酵温度は15~20度。ブファーの窒素充填できるプレッサーを使用し、還元的な果汁を得ている。嫌気的な仕込みをしている。酵母は明らかにはしないが、SBタイプのものを使用している。オリとは3月ぐらいまで一緒にしている。たんぱくのオリが出るので、ベント処理はする。仕込みロットは農家で分けている。製品になるのは一緒。酵母は変えない。
 
② マンズワイン
  収穫後、冷蔵し、醸造は10時ぐらいからスタート。かつては除梗破砕時にSO2を添加していたが、現在は果汁に添加している(ぶどうによる。最低で20ppm)。1晩でデブルバージュ。10℃ぐらいから水をかけて温度を上げる。そんなに冷やさない。チオールの変換効率を考え、温度は20度ぐらいまで上げたい。資料に24℃とあるが、これは高すぎるかもしれない。チオールが出るように作りたい。それはSBの特長にチオールの香りがあるので。SBに関しては香りを出したい。シュール・リーで3月くらいにおり引き。ベント処理はしている。

③ リュー・ド・ヴァン 
  土日を2回かけて収穫をする(3~4日間)。プレスのサイズまで収穫できたら仕込みを始める。その間は冷蔵庫で保管。プレッサーの中で数時間スキンコンタクトする。亜硫酸は30ppmぐらい。腐敗果があるときは40ppm。果汁を見れば効いているかわかる。SB酵母を使用。元々香りをもっている品種なので、どの時点でプレカーサーが最大になるか等の調査はしたが、今は考えていない。ワインをつくるにあたり果肉が熟した時が重要と考えている。2017は1年たって変わっている。今まで瓶詰時には亜硫酸をほとんど入れていないが、入れたほうがいいかもしれない。2~3月にオリ引き。前職ではたんぱくに困らされていたが、現在はたんぱくには苦労していない。

④ メルシャン
  SO2はブドウの状態でも変えるが、通常は除梗破砕時に30ppm添加している。スキンコンタクトはせず、搾汁後一晩冷却し、デブルバージュしている。NTUは管理して、250~300前後を目安に調整している。酵母はチオールのリリースの高い酵母がメインでVL3など。最近はDELTAも試している。チオールを効率よく引き出すためには発酵温度が高い方が酵母由来の酵素の活性が高まり有効だが、高くなりすぎると還元臭が出やすくなるため、発酵温度は19℃でコントロールしている。21℃以上にはならないようにしている。ブドウの香りを全面に引き立たせるため、シュール・リーはせず、滓由来の香りを出来るだけワインに付けないようにしている。発酵後すぐに滓引きしてステンレスタンクにて満量貯酒をしている。タンパク安定化処理を目的として、ベントナイトを使用するが、添加量は味わいを見ながら、必要最小限のところを攻めている。不本意にも充填後にタンパク沈殿を出てしまった年もある。味わいも残しながら、タンパク沈殿が出ないような滓下げ条件は検討していきたい。
  椀子SBは少し熟成してやると、白い花の香やハーブの香りが出てくるので、育成を長くしてみたというのが今回のワイン。出来立てのフレッシュな香りだけではなく、他の香も調和するワインができればいいな、と思い始めている。
 
⑤ シャトレーゼ
  ナイトハーベスト後、冷蔵庫で保管。オープンプレス。搾汁率は65%。亜硫酸は50ppm程度。1日デブルバージュ。汚くないオリを多少入れる程度。エステルを出したくないので、発酵温度は18℃ぐらい。ベント処理はしない。ペーパーでろ過。
 
【醸造に関する質疑応答】
質問1.シャトレーゼの北杜市の圃場の扱いは?商品はどうなるか?
シャトレーゼ戸澤 :3種畑がある。勝沼SBは菱山がメイン。残りの鳥平、日川沿いで収穫できるものはドメーヌシャトレーゼ 白というセミヨンとのブレンドに使用している。2つの産地は菱山と香りも違うので、セミヨンとブレンド。北杜ができたらだいぶタイプが異なってくるので、山梨県産SBとして商品化できればいいかな、と思っている。また、良いところを生かしてブレンドする可能性もある。
 
質問2.還元臭がしやすい品種なのかと思っているが、みなさんがどう思っているか。
    また、チオールではない香り特徴の可能性はあるか?
回答2(各ワイナリーより回答)
リュー・ド・ヴァン小山:今日の状態ではチオールが出ていないが、昨年は爆発的に出ていた。チオールは出ればでたらいい。ぶどうがまっ黄色によく日にあたったものでも、チオール酵母を使えば香りがでるので、追っていない。
還元臭は出る。2018はチオール香の奥にあった。その程度であれば瓶詰すればなくなるので、気にしていない。特に還元臭が出やすいとは思っていない。SBらしい香りと表裏一体ではあると思っている。2017はない。
 
サントリー桜井:還元臭はSBについては何年かに1回出ることがある。理由は濁度が高い、窒素元の不足、急激な発酵等が考えられる。発酵終わったあと、オリを攪拌して防ぐ方法もある。予兆があれば、重いオリをはずして、軽いのを残すことも。やったことはないが、還元臭の予兆があれば、オリを外すというやり方もある。外して3~4週間放置すると還元臭は消えるので、戻すという方法。
チオールについては現段階で出ているので、「チオールにはこだわっていない」と言っているが、SBっぽい個性が14年まではでなかった。チオールが出ているものが2~3年たってあがってくるかというものはそうでもない。1年で消費されるならいいが。これからスタイルを探していきたい。
 
メルシャン高瀬:オリ引きをすぐにするので還元臭はあまり出ない。チオールについてはある程度の量は必要だと思っている。椀子SBを醸造する際にフリーランとプレスを分けて発酵しているが、プレスを単独発酵すると、モノテルペン系のレモネードのような香りのワインが出来ることに気付いた。18年はプレスワインを一部ブレンドし、白い花やハーブの香りを足し、複雑味を与えた。チオールだけでなく、リースリングにもあるモノテルペン由来の香りの可能性もあると考えている。
 
シャトレーゼ戸澤:発酵中に飢餓状態になる。それで助成材を足す。発酵中に還元臭した場合、オリ引きの時に気をつけたほうがいい。貯酒段階で表面は大丈夫だが、オリとの接触面はやられていることが多い。2017はチオールよりはボリューム感。過去スキンコンタクトしたこともあるが、フェノリックになったりした。いろいろやってみた。2018はスキンコンタクトした。以前より環境がそろったから。チオールと言われるものが多少あったほうがお客さんは混乱しないのでは。それに果実感を乗せられればいい。
 
マンズワイン西畑:還元臭は問題になる。チオールを守りたいので。どこまで還元的でなくてもいいのかのポイントを探している。還元臭が出たら助成材を入れるということをしていると菌量が多くなり、オリが増えて還元臭が出る。品種特性というよりも、醸造で目指しているところが還元的なものなので、還元しやすいだけだと思う。シャルドネでも同じようにつくれば、出るはず。
チオールは出したい。2005年の入社当時は日本ワインでSBの個性を感じるワインはほとんどなかった。今はわかるものも出てきた。チオールはSBには必要。味わいを求めるなら他の品種を。ボルドーでも味わいを求めるのであれば、セミヨンと混ぜている。味を求めるならその方がいいと思う。
 
質問3.SBは還元的な処理をしていくと白ワインはピンキングの問題が起こる。どのように対処しているか。また、ベントの妥協ラインを教えて欲しい。
回答3.(各ワイナリーより回答)
リュー・ド・ヴァン小山:ピンキングは1回出した。瓶詰直前はわからず、後からでてきた。委託醸造の際に出てきた。当社では発生していなかった。2か月ぐらいたったら消えた。味に問題はないので、神経質には考えていない。前職でやっているときはたんぱくが出た。クローンは同じなのに、今は出ない。香味がそがれるので、出たらやろうと思っている程度。
 
サントリー桜井:ピンキングはSBではない。たんぱくは不安定。ベントはする。香味は奪われるが、市場では出さないようにしているし、品質もそこまで落ちている印象はない。高価格帯であれば、多少出てもいいかもしれないが、これは3,000円なので、出さないようにしている。ホールバンチしているので、多少は梗が吸着している可能性もある。シュール・リーも効果があるかもしれない。
 
メルシャン高瀬:SBではピンキングを出した経験はない。甲州で出た経験があり、原因はわかっていない。オリ下げが不十分だったなどの可能性はあるかもしれない。SBはタンパク沈殿が出た経験はある。味わいと安定性を両立できるような条件の研究をしたいところである。
 
シャトレーゼ戸澤:SBではピンキングはない。デラや甲州ではある。たんぱく質はベント処理をしていない。たんぱく試験はしている。どの辺で止められるのかだけ見ている。流通する本数が少ないので。
 
マンズワイン西畑:製品ではピンキングになったことがない。ポリフェノールはチオールを酸化させる可能性があるので少なくしたい。ベント処理は行う。白ワインはキレイにしたほうが香りのクリアさが出る。自分としては積極的にやっている。
 
▶コーディネーター鷹野氏より質問者に質問(安心院ワイン)
質問:ピンキングする理由は?
回答:それまでしなかったが、窒素置換圧搾機を導入した年に瓶詰前にサンプリングしたものがピンキングしたので、処理をした。それまでと違う酸化条件になったせいか。品種由来のものか?毎年ではない。
 
【各社の意気込みについて】
リュー・ド・ヴァン小山:今日の5社のワインを飲むと多様性を感じる。第1部のマルボロのものも多様性があった。マルボロでも灌漑するかどうかでヴィンテージの違いが出てくる。我々もヴィンテージによって違いが出る。気候に恵まれない日本でワインづくりをすると、栽培・醸造でどれだけあらがえたかということが1つのヴィンテージに出てくる。テロワールと人の営みがレコードされたものがワインだと考えている。SBもSBらしいというのは大事だけれど、これから日本中で多様性のあるものが出てくればいいなと思っている。当社もよりリーズナブルに飲んで頂けるように増やしたい。マルボロほどではないにせよ、安定していいワインができればと思っている。楽しい未来がひろがっていると思う。
 
サントリー桜井:SBをつくっていて思うのは、グローバルに考えると、日本はコストが高い。例えば津軽を産地化するにはまずビジネスとして農家さんが成り立たなければならない。先々の代まで続かなければならない。世界の中で自分のSBがどのポジションなのか考えたい。それを考えるのが技術者としての楽しみだし、少しずつの欠点はあるもので、それを良くしながらやっていきたい。長野のSBとは違った津軽のSBらしさを引きだすのが使命であり楽しみ。
 
メルシャン高瀬:第1部でのなぜマルボロが爆発的に広がったのかの理由がマルボロには唯一無二の特長があったからという話が印象的だった。日本のSBが唯一無二になるにはメーカーサイドが考えなければならない。日本人がつくっているからこそという特徴が重要。今日の5種のサンプルにはフィネス、エレガントさを感じたので、これを共通項にするのもいいのではないかと思う。品質としては太刀打ちできるようになってきているが、コストパフォーマンスを世界と比較すると負けてしまうことがある。各ワイナリーの目指す方向性次第だが、値段を維持しながら品質を上げたり、コストを下げたりする努力が必要と考える。
 
シャトレーゼ戸澤:今日の資料を見ると平均気温などで山梨は36.5℃とか(他の栽培地に比べ高い)。山梨でつくっていていいのか?と思うが、その土地特有のSBを感じられればよいのかと思う。畑のポテンシャルを見極めてそこにあったSB、おいしいワインができればよいかと思う。
 
マンズワイン西畑:SBだけでなく、他の品種も含めて思うところではあるが、ワイナリーが増えてきて、これから様々な産地を感じられるようになると思う。その中で何のワインをつくっているか、ということがまず大事ではないか。これからが楽しみ。価格について、市場では2000円より上のワインはみんな高いワイン。世界的に見ても同様。安いものはワンコイン以下。だいたい1000円ぐらい。ソラリスを1000円下げたからといって売れるようになるかどうかはわからない。それよりも高額でも買ってもらえるようなワインを目指したい。
 
【鷹野氏よりディスカッションの総括】
今日のディスカッションで多様性があることがわかった。ものづくりをこれからしていくなかで、様々な道を選べることが感じ取れたのでは。それは難しいことではあるものの、引かれたレールを歩くよりも自分でつくりだしたほうがいい。それがモノづくりの醍醐味である。多くの人が日本ワインづくりに加わることによって新しく生まれる価値がある。そういう体験をしてきた。個性をしっかり持ちつつ、大同合意していくのが日本のワインの目指すところではないかと思う。発展していくことを望んでいる。
 
レポーター 所感:
SBはグレープフルーツ、ツゲ、パッションフルーツなどに代表される爽やかなチオール化合物の香りが特徴の白品種である。ボルドー大学などでよく研究されているので、どのようにその香りをワインの中で最大化するのかは比較的知られている。収穫前にはボルドー液の散布は抑え、早めに収穫し、嫌気的に仕込む。スキンコンタクトや酵母の種類、発酵温度、熟成方法などにまで配慮すれば、チオールの香りはバッチリ出てくるはずだが、日本には誰もがSBだとわかるワインが少なく、難しい品種という印象がある。教科書と現実は違うことが実感できる例だ。しかし、困難ながらも取り組みメーカーが弊社サッポロビールを含め全国で増えてきているのは、やはり品種そのものの魅力や成功した時の喜び、お客様の満足感につながるからだろう。
 
今回のワークショップでは、日本の中では比較的長くSBに取り組んできた5社の皆さんのディスカッションを信州たかやまワイナリー鷹野氏のコーディネートで聞くことができるという貴重な機会として、大変楽しみに参加させて頂いた。
 
各社のワインメイキングの詳細な情報にまで触れるディスカッションであったが、特に自身が学んだことを簡単に列挙する。
 
・日本の芽吹きが遅く、収穫が早いので、他の品種と収穫がかぶらない、秋雨や台風の被害に遭いにくい、ベト病にかかりにくいという日本の気候に向いた特徴がある。
・樹勢が強く仕立て方に工夫がいる。ギュヨの結果母枝を3〜4本取るなど等。
・除葉はメーカーによる。フレッシュな香りを維持するために積極的には行われていない傾向。
・香りは食味である程度判断できる品種である。
・チオールの香りは基本的にある(出る)。
・果汁の窒素量が少ない場合、発酵助成剤で補ってやるが、チオールの香りを逃がさないために還元的に仕込むため、やり方を間違うと還元臭が出てくることがある。
・たんぱくは安定しない。ベント処理はメーカーの考え方に沿って実施されている。
・チオールの香り以外に、モノテルペンの可能性をメルシャン高瀬氏は感じている
 
チオールは重要な要素だと個人的には考えるが、それゆえに他の特徴への注目をおろそかにしそうになる。落ち着いて考えればボルドーにおいても北部と南部では酸の印象が異なるし、同じアペラシオンでも砂地と粘土質土壌で口当たりが異なり、香り以外の個性も大切にされている。今回は5社のワインをテイスティングし、そういったチオール以外の多様性も重要であることに気づかされた。まだ日本のSBは評価基準が定まっていないように思う。その中で品種の特徴、日本の特徴、産地の特徴、各社の特徴と大きなところから個別に至るまでのSBの特徴を我々が表現できるようになり、市場に認知されるまでは(マルボロに比べ)長い時間がかかるのかもしれない。今回のように取り組みメーカー同士で情報共有をすることで、期間が短縮できたり、より高い到達点に行くことができたりするのではないかという希望を感じた。
 
ワークショップの開催を企画された日本ワイナリー協会、素晴らしい気づきを下さったコーディネーターの鷹野さん、また情報を惜しみなく開示くださったパネラーの小山さん、桜井さん、高瀬さん、戸澤さん、西畑さん、また皆さんの勤務先企業様に心より御礼申し上げます。

 

ワインは番号順にブラインド・テイスティング
ミル・プランタン オーナーソムリエ 五味 丈美氏によるコメント

① サントリージャパンプレミアム 津軽ソーヴィニヨン・ブラン2017
  コメント:グレープフルーツの香、カシスの芽。酸がある。
  中盤から甘味があり、やさしい。
    
② マンズワイン ソラリス 信州ソーヴィニヨン・ブラン2017
  コメント:アロマティック。冷涼な産地を想わす。
  酸あり、苦味あり。冷涼な場所の特長か?
 
③ リュー・ド・ヴァン ソーヴィニヨン・ブラン2017
  コメント:5点の中で最も色調が濃い。濁りがある。
  他とつくりが違うのでは。紅茶の葉のような香。
                
④ シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン2017
  コメント:グリーンな香り。ハーバル。パッションフルーツの香り。
  凝縮した果実味。
     
⑤ 勝沼ソーヴィニヨン・ブラン2017(シャトレーゼ)
  コメント:ハーベシャス、アルコールボリュームがある。
 
 以 上