日本ワイナリー協会オンラインセミナー 「超入門!ワイン造りに必要な分析」

株式会社 岩の原葡萄園
製造部 武田 陽平
 
継続するコロナ禍による影響で本セミナーはオンライン上で行われた。
私は入社2年目の新人のため、分析の基礎について学びたいと思い本セミナーを受講した。
同じように分析について学びたいと考えている方のためにもセミナーのおおまかな内容とポイントを箇条書きの形式でまとめた。
 
「ワイン製造中の分析 いつ、何を、どのように分析するか」
 講師:酒類総合研究所 後藤 奈美
 
1.ワイン製造中の分析項目
分析項目は以下の通り
・果汁の比重
・アルコール分
・エキス分
・総酸
・pH
・亜硫酸
・果汁の資化性窒素
・(吸光度、濁度)
・(還元糖、揮発酸、リンゴ酸)
中でも、果汁の比重・アルコール分・エキスについては記帳が必要で、正確な分析が必要
 
2.基本の分析技術
分析技術には浮ひょうを使った分析、滴定、蒸留などといった技術がある。
・果汁やワインの比重やアルコールの分析には浮ひょうを使うのが一般的。
浮ひょうは手作りなので、若干の誤差「器差」があるので、読み取った値から器差を差し引いて真の値を求める。
・滴定は特殊な操作だが、これができると総酸・亜硫酸・資化性窒素を分析できる。分析担当の人にはぜひ覚えていただきたい技術とのこと。
・液体の容量(ボリューム)を計る操作では、多い量ではメスシリンダー、少ない量はホールピペットやメスピペットなどのピペットを使用する。
 
3.比重の分析
比重は、4℃の水と15℃の液体の重さの比を使用する。
温度によって体積が若干変わり、比重も変わるので15℃で計るのが基本。
・果汁
果汁の比重を計り、(比重換算)糖度を求め、どの程度の補糖をするかの計算を行う。
果汁は糖分が多く含まれているから比重が大きく、糖分が高くなればなるほど比重は大きくなる。
 
4.果汁の糖濃度の測定と補糖量の計算
―果汁の糖濃度の測定―
果汁の比重を測定し、糖分に換算する。
計算式は以下の通り。
果汁の糖分=(果汁の比重−1)x100x2.7-2.5
 
・糖を溶かすと体積が増えるが、これを溶解実績という。
足りないと思う分を入れるだけでは体積が増えて薄まってしまい、糖分が足りなくなってしまうので注意が必要である。
・補糖量を計算する為には、果汁量も必要となる。
検定済みタンクの空寸(液面上からタンク縁までの高さ)を測定し求める。
これをこの操作を検尺という。
赤ワインの場合はぶどうの皮や種など、もろみが含まれているので同品種の果汁割合から推定する。
初めての場合は、80%程度で計算。
 
―補糖量の計算―
・計算式は下記を使用。
補糖量=((A−C)×果汁量) / (糖の転化糖分−A x 溶解実績)
A:補糖後の糖分 C:補糖前の糖分
 
・転化糖分=ブドウ糖と果糖を分解した時の糖の量
ショ糖に水(H2O)が加わると、ブドウ糖と果糖に分かれる。
その水の重さの分だけ増えることになる。
・溶解実績とは1kgの糖を溶かした時に増える体積のこと。
・約1%のエタノールは16.83g/Lの転化糖分。
果汁糖度が22%で完全に発酵するとアルコール分は約13%となる。
・計算をするのは面倒と思う人は、山梨県ワイン製造マニュアルの補糖表を活用すると良い。
 
5.補糖
酒税法により以下が決められている。
・砂糖(ショ糖)、ブドウ糖、または果糖を使用すること。
・補糖量が果実の糖分を超えないこと。
・補糖をした場合のアルコール分は15%未満であること。
また、補糖をせず糖分が不足するとアルコール分が低くなりすぎてしまい、微生物汚染しやすくなってしまう。
 
6.アルコール分の分析
・アルコール分
ワインを蒸留し同じ体積のアルコール水にして、その比重からアルコール分を求める。
試料を蒸留フラスコに移した後の洗液は多すぎると十分に蒸留できないので、洗液の量を多すぎないようにすること。
分析にはアルコール浮ひょうを使用する。
アルコール水溶液<水<果汁
アルコールは同じ体積であれば水よりも比重が小さい、アルコール濃度が高くなればなるほど小さくなる。 
・エキス分
ワインの比重とアルコール分からエキス分の計算を行う
・浮ひょうを使って比重を計る操作はワインの分析の中で最も大切な部分である。
 
7.エキス分
・エキス分とは、ワインに含まれる不揮発性成分のこと。 g/100ml (15℃)
・辛口の赤ワインで2.5%程度とほぼ一定。
・ワインの比重と含まれるアルコール分の比重から計算する。
・山梨県ワイン製造マニュアルにエキス表換算表が掲載されている。
 
8.pH
・0(強酸性)〜7(中性)〜14(強アルカリ性)
・ワインのpHは3.2〜3.8程度で白ワインは低めの値となる。
・レモンの果汁は2.0程度である。
・pHが高いほど微生物汚染しやすく危険なので、高すぎる場合は補酸をしてpHを低くする必要がある。 
・pHメーターは標準溶液で校正の必要があり、アルカリ側の標準溶液は古くなっていると正しい値にならないので注意。
 
9.総酸(滴定酸度)
・10mlのワインに含まれる遊離の酸を中和(pH8.2)するために必要な0.1N NaOH(アルカリ)の量から計算し求める。
・日本では通常、酒石酸濃度に換算し以下のように表す。
酒石酸(g/100ml)=滴定値(mL) × 0.075
・酸が多いほど、中和に必要なアルカリは多くなる。中和するまでアルカリを垂らし求めることを中和滴定という。
・ワインの中和点のpHは、ややアルカリ側にあるため指示薬はフェノールフタレインを使用する。(pHメーターで測る時はpH8.2まで滴定する。)
 
10.pHと総酸
・pHは他の成分の影響も受けるので、pHを測定しても酸の濃度(総酸)は分からない。その為、どちらも測る必要がある。
 
11.亜硫酸
・総亜硫酸の量は、食品衛生法により350 mg /kgと定められている。
・総亜硫酸の中には亜硫酸として機能する遊離型亜硫酸と、亜硫酸として機能しない結合型亜硫酸がある。
・亜硫酸には抗菌性と抗酸化性の効果がある。
・pHが異なると抗菌性も変わる。
・微生物の増殖抑制に必要な分子状亜硫酸濃度は0.6mg/L〜0.8mg/Lであり、2mg/L以上では亜硫酸臭を感じさせてしまう。
 
12.亜硫酸の測定方法
・亜硫酸の測定でよく使われる測定方法はランキン法とリッパー法がある。
・遊離型亜硫酸と結合型亜硫酸は温度の影響を受ける為、貯蔵庫の温度で測定をする。
 
13.亜硫酸使用の注意点
・ワイン醸造中に遊離亜硫酸だけでなく、総亜硫酸も減少する。
・亜硫酸を使用しても、ワインの酸化を完全に止めることはできない。
・酸素に極力触れさせない条件を作り、亜硫酸で守るという考え方。
 
14.果汁の資化性窒素の分析と発酵助成剤
・資化性窒素とは酵母の栄養になるアミノ酸などのこと。
・窒素分が不足してしまうとS系異臭(還元臭)や発酵遅延を起こしやすくなる。(最悪の場合は止まってしまう。)
・資化性窒素分が180〜250mg/L程度になるよう、食品添加物であるリン酸アンモニウムを添加する。(酵母添加後6-12時間後と、1/3程度発酵が進んだ時に加えると良い。)
・必要であれば窒素分だけでなく、ビタミン・酵母細胞壁などを含んだ発酵助成剤を使用すると発酵遅延が起こりにくくなる。
 
15.デブルバージュ(果汁清澄度)と果汁の濁度
・デブルバージュにはワインの青臭さや還元臭を下げる効果がある。
・濁度とは懸濁されている微粒子の濃度のこと。(単位はNTU )
・デブルバージュは白ワインの発酵前に行うが、その際には果汁の濁度がヒントになる。
・濁度を100〜250NTUになるよう調整をする。
 
16.ワイン製造時に必要な分析(まとめ)
 
 ・仕込み時
   果汁分析(比重→糖度→補糖→総酸・pH・資化性窒素→発酵助成剤)
   (白ワインの場合)デブルバージュ時の濁度
   各作業の前後:温度、液量
                ↓
 ・ワイン製成後
   記帳、温度、液量、アルコール分、比重→エキス分、(総酸・pH)、(リンゴ酸:MLFの確認)
                ↓
 ・貯蔵中・瓶詰時
   亜硫酸、pH
 
「分析はワイン造りの基本!適切な分析で品質と再現性の確保を」
 
 
 
「解りやすい分析の実際 分析注意点、分析動画、ワイン造りに役立つ情報を含めて」
 講師:酒類総合研究所 澁谷 一郎
 
1.実験の心構え
実験の心構えとして以下のことを心がける必要がある。
・安全
 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の遵守、ヒヤリハット
・正確
 マニュアルをよく読む、操作に習熟する
・簡単
 作業のルーチン化
 
2.安全な実験のために
・実験室で起こる事故ワースト3は、手を切る、目に入る、やけどである。
手袋やメガネなどの保護具着用、ガラス器具の点検、ガスの使用を極力避けるといった対策が必要。
・スマートフォンは電卓としての機能や、実験の記録用としても使える。
 
3.実験室によくある機器類
・各種実験装置についての紹介があり、中でも蒸留装置、浮ひょう(アルコール・比重)は必需品である。
 
4.分析動画の紹介
・動画ではアルコール分析、pH測定、総酸分析から資化性窒素分析、亜硫酸分析の方法を紹介。
それらの動画はYouTubeのNRIBchannelにて公開されている。
また、動画に準拠した初心者向けの「ワイン分析マニュアル」が酒類総合研究所より公開。
 
https://www.nrib.go.jp/wine/analysis.html
1 分析のはじめに : https://www.youtube.com/watch?v=57_dN8B2ngU
2 アルコール分析 : https://www.youtube.com/watch?v=rwt1RHAOeGs
3 pH測定       : https://www.youtube.com/watch?v=ojW3oz0f6oA
4 総酸分析から資化性窒素分析 :https://www.youtube.com/watch?v=EcwjtyjmMp4
5 分析       :  https://www.youtube.com/watch?v=_4BJvvculHE
 
初心者向けワイン 分析マニュアル(ビデオを簡潔にまとめたダウンロードできるパンフ)
               https://www.nrib.go.jp/wine/pdf/nrib_wbm.pdf
 
 
5.ワイン情報まとめサイトについて
・教科書、技術文献の紹介や、和訳した海外の技術論文などワイン醸造に役立つ情報を掲載したサイトが酒類総合研究所にて公開されている。
 https://www.nrib.go.jp/wine/wine_info.html
 
 
所感:
私は醸造用ぶどうの栽培を担当していますが、繁忙期には仕込みや醸造、瓶詰めの業務も兼任しています。
これまでは「アルコールを高くするために補糖を行う」「亜硫酸を使用するのは酸化させない為だ」などと、ただ漠然とした考えで作業に当たっていましたが、今回オンラインセミナーを受講し、復習まで行うことでそれらの工程がどうして必要になるのか、基礎の部分からしっかりと理解することができました。
私と同じようにワイン造りに携わって日の浅い方からすると、超入門とはいえ1度で理解することは難しいと思うのでワイン造りに必要な専門用語や知識を事前に予習をしておくと、よりスムーズな学習ができると感じました。
今回セミナーを通して習得した知識を実務で活用し、より良いワイン造りと日本ワインの発展に貢献できるよう努めていきたいと思います。大変勉強になりました。ありがとうございました。