ニュージーランドの若手醸造家がみた長野と日本のワイン造り

ニュージーランドの若手醸造家がみた長野と日本のワイン造り
                                                                                                Mariko Withrington
 
オークランド大学で醸造学を修め、卒業後10年経たないが北半球で収穫期に働き1年に2回仕込みを経験するなど着々とキャリアを積み重ねてきたウイズリントン真理子さん。母の母国で経験を積みたいと日本のワイナリーに何通もの履歴書を送り、願いがかない3年間と期限を決めて来日した。
まだ修行中という真理子さんの目に長野さらに日本のワインそして醸造家はどのように映ったのか。
以下、素直に感じたところを日本語でレポートしてくださった。
 
 
 こんにちは, ウイズリントン真理子と申します。私はニユージーランド人のワインメーカーです。2年間、北海道のNiki Hills Wineryでアシスタントワインメーカーとして働いています。
 まずは、今回の長野訪問をアレンジしてくれた方、2日間案内役を引き受けてくれた方、ご自分のワイナリーを丁寧に案内して説明して下さった方々に感謝します。
 長野にはたった2日しかいなかったのですが、三点がとても印象に残りました。
 一点目の印象は何と言っても、山の高さで、周りの山々は大変高く、美しくてびっくりしました。訪れたワイナリーは違う標高にありました。そして、違う標高で作られたそれぞれのワインの特徴を知ることができたのは、とても興味深かったです。
 長野の夏はよく40度にもなるそうです。けれども、山のかなり高いところにある、シャトー・メルシャン・マリコ・ワイナリーに着くと、あらゆる角度から、涼しい風が吹いているのを感じることができました。その長野の山地のワイナリーを回っている間に、 この地域では、他にどんなブドウを栽培できるだろうかと考えていました。
 お会いした多くのワインメーカーがシャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールといった、フランスで主流のブドウの種類に焦点をおいて栽培されていることに気がつきました。それらはとてもいいワインで、とても飲みやすいです。けれども長野の環境、気候を考えると他の種類、例えば、Gewurztraminer, Verdejo, Chenin Blanc, Greco 、それに Viognierも栽培すれば、本当に個性のあるワインを造れるのではないかと思います。

 二点目の印象は、長野はとても広いということです。一日中、車を走らせて、谷を渡ったり、山越をしたりしました。南は、中信の塩尻市のいにしぇの里葡萄酒から、北は、北信の高山村のShinshu Takayama WineryとViniqrobeというワイナリーまで訪れました。塩尻から高山までは遠くて、車で1―2時間かかります。
 それぞれの地域のmicroclimateは大変違うのですが、それによって、ワイン栽培地区が区分けされていません。ですから、長野県で造られるワインはすべて“長野ワイン”となっています。
 お会いしたワインメーカーの方々のお話を聞いていて、とても強い印象を受けたことがあります。それは、皆さんが自分たちの地域で栽培されているブドウを使って、その地域だけがもつTerroirが出せる、独自のワインを造ろうとされていたことです。 つまり、あまり、もしくは全く干渉しようとせずに、自分たちがブドウを栽培している地域のTerroirを表現されていることでした。
 こういったことを考えた時、どの地域で造られたワインかをラベルに表示することはとても大切ではないかと思いました。そうすることによって、消費者はワインを飲んだ時、“ああ、塩尻ワインや高山ワインと比べて、上田ワインはこうなんだ”と比べることができます。つまり、長野で造られるワインを十羽ひとからげに“長野ワイン”と名付けるより、長野県内でのブドウの栽培場所によって、異なった区分けをして、異なった名前をつけてはどうかなと思いました。北海道でも同じことが言えると思っています。

 三点目は長野には沢山の個人醸造場 があることです。そして、どんなに小さな醸造場でも必要なものはすべて整っています。それぞれの醸造場は小さなプレス機からビン詰めの機械まで所有しています。これは、北海道にあるワイナリーでも同じで、大変驚きました。ニュージーランドでは、経費の節約のために小さなワイナリーは共同で機械を購入するか、機械を持っているワイナリーの機械を使わせてもらっています。
 シャトー・メルシャン マリコ・ワイナリーの大変バランスの取れたシラーとシャドネーがとても気に入りました。その味は、長野の上田地区の涼しい風と高地にあるブドウ畑から取れるブドウの特徴をとてもよく表していると思いました。
 また、いにしぇの里葡萄酒のスキンコンタクトナイアガラは大変興味ふかい手法だと思いました。そして、ピノ・ノワールを試飲させてもらいましたが、これには明らかに、ワインメーカーの努力と創造性が注ぎ込まれていることが分かりました。
 私の全体的な印象として長野ワインは良いワインで、長野というものをよく表していると思います。ワインはワインメーカーの努力がそのまま表れるものであり、細かい点まで気にかけ、質の高いワインを造ろうとする情熱とやる気の高さが、長野の特定の地域のTerroir を表していると思いました。
 北海道と長野で、とても熱心にいいワインの造り方を学びたい、そして、ワイン造りのスキルを上げたいと願っているワインメーカーの人々と多くあいました。これを達成する最善の方法は、勉強と情熱と経験だと思います。
 勉強と経験について、NZの現状を書きたいと思います。NZでは、ワイン造りを学ぶために、いろいろな方法があります。
まず、教育。ワイン造りを学べる学校がNZ国内に数校あります。教材、資料もたくさんあります。
 次に、海外のワイナリーでワインを造る機会がとても多いことです。
 学校を卒業したらワイナリーに就職し、何年も一番低い地位で、ワインメーカーから学びます。そして、1年のある一定の期間、海外のワイナリーに行って経験を積みます。私も毎年、約4−5ヶ月、海外のワイナリーで働きました。その間、他の国から働きに来ていたワインメーカーたちとお互いに情報を交換して多くのことを学びました。
 ですので、日本のワインメーカーの人々もオフシーズンの間に、南半球の国のワイナリーに行って、経験を積むことを勧めます。
どこに行くか決める時には、二つの選び方があります。
 一つ目は、自分のワイナリーと似た気候の国と場所に行くことです。二つ目は、自分が“造りたいスタイルのワイン”を造っているワイナリーに行くことです。一年のうち、4−5ヶ月も海外に行くことは難しいかもしれません。けれども、たとえ一ヶ月でも、経験は経験です。
 皆さんのおかげで、日本ではとても素晴らしい経験をさせていただきました。将来、また訪れて、知り合った人々と再会することをとても楽しみにしています。
 
 

Mariko Withrington-ウイズリントン真理子―経歴
ニュージーランド国籍 オークランド大学でWine Scienceを習得後、ニュージーランド国内のワイナリーで5年経験を積んだのち来日、2019年6月よりニキヒルズワイナリー(北海道仁木町)のアシスタントワインメーカー