OENOVITI Symposium 2021 開催報告

OENOVITI Symposium 2021 開催報告
 
ボルドー大学が主催している世界的なワイン科学コンソーシアム「Oenoviti International」は第10回国際シンポジウムをオンラインで開催。4セッションけ計約20の興味深いセミナー発表がなされ、全セミナーをYouTubeで視聴できます。
 
Session 1: Overview of winemaking
Session 2: Wine Appellations and Wine Tourism
Session 3: Authenticity
Session 4: Winemaking and Winegrowing Innovations
                        and Novelties  & conclusions
 
ここでは2つのセミナーの概訳を掲載します。図表等は版権の問題から掲載できませんのでYouTubeを参照ください。
 
 
【 Session 1 】
OVERVIEW AND NEW DEVELOPMENTS OF WINE TECHNOLOGY
ワイン生産技術の新規開発と概要
 
講師 Monica Chrisman
   ガイゼンハイム大学 エロジー・インスティチュート教授ty
 
YouTube   https://www.youtube.com/watch?v=a2sAJyMNGRk&t=4296s
             [ワイン生産技術の新規開発と概略]はスタート後1時間9分より
 
ワイン醸造の技術面で今何が起きているのかを、さらに、そうした技術がどのように相互にリンクしているかをお話しします。
 
私たちはこの2,30年間、必要な技術を取り入れることに力をいれてきました。具体的にはぶどうの収穫技術や運搬システム、除梗破砕機などの改善方法を模索してきました。また、様々なプレス方法やスキンコンタクト時間、果汁清澄時の酵素の使用方法、殺菌方法にも力を注ぎました。最近では、酵母選抜や発酵温度などについても耳を傾けるようになりました。
 
これらの事柄は、醸造機器の使用によるストレスを最小限にし、ワインの苦みやオフフレーバーを防ぐために行われています。しかし事態は変わりつつあります。以前は思いもよらなかったことに重きを置くようになりました。
 
未来はどのような方向に進んでいくか、どの道を行くべきか知っておかなければなりません。頭の中に大きなクエスチョンマークを浮かべている人もいるでしょう。誰も未来が書かれた黒板の前にいるわけではないのです。私たちは様々な側面に耳を傾け、これから起きようとしていることに注目しなければなりません。
 
すなわち疑問点は、未来では何が起きるのか、そしてなぜそれが起きるのか。
この疑問は別の視点から捉えることができます。
 
ここでは最も影響の大きい要因の1つとして気候変動を挙げています。なぜ明確な気候変動が起きているのかに注目してみると、原因と今後なにが起きるのかを問うことになります。これらについては後程、触れようと思います。
近年、我々はアルコール度数の上昇、酸の低下、苦みの増幅、白ワインにおけるピンキングなどを経験してきました。一方、技術の進歩を考慮に入れなければなりません。
さらに消費者保護という問題も劇的に増加し、、それに対する要求も非常に重要になってきています。これはいかにして人体に悪影響をおよぼすワイン中のアレルゲン性の残渣から消費者を保護するかという包括的な問題でもあります。
結果として近いうちに何か新しいスタイルのワインが開発されるかもしれません。しかし、消費者の期待はここ何年かにわたって変化しています。例えば10年か15年前は赤ワイン、それもアルコール度数が高ければ高いほどよいという感覚でした。これはフレンチパラドックスの問題を思い出させました。そして突然、すべての消費者が高濃度のポリフェノールを含む高アルコールの濃い赤ワインを期待しました。それが今や白ワインへと、やや高めの酸へと、さらに低アルコールのワインへと逆戻りしています。この動きは波のように伝わり、例えば 強い赤ワイン需要によって畑でも劇的に黒ブドウ品種が増加しました。今ではその需要が減少するにつれ、驚くほど大量のロゼ用ブドウが生じ、フレッシュさや低アルコールなど白ワインと同じようなスタイルのロゼワインの生産が増加しています。私たちはこのようなことに対応しなければなりません。そしてまたこれこそがまさに市場が求めていることです。
さらには国際的な競争も拡がり、思いもよらなかったワイン生産国が次々と誕生しています。例えばオランダやベルギー、デンマーク、スウェーデンではワイン生産が盛り上がっています。また、イギリスにおけるスパークリングワインも同様です。イギリスでは非常に高価格の非常に素晴らしい製品を造っています。競争は激化しています。またこれは中国についても言えることです。中国では素晴らしい赤ワインが生産されるようになってきています。そして、今後さらに良くなっていくでしょう。そしてまた、消費パターンも変化してきています。よりグローバル化してきています。10~15年前には世界的には40%、そして今やそれ以上のワインが非ローカルワイン、つまり輸入されたワインであり、消費者は自国のワインだけでなく他国のワインにも興味を示しています。私はこれは非常に面白い発展だと思っています。すでに述べたようにオレンジワインやナチュラルワインなど新しいスタイルのワインに出会えるからです。オレンジワインやナチュラルワインはニッチな市場でそのシェアを伸ばしていますが、面白い発展であり、消費者需要があるということなので、私たちは生産者としてこれに反応しなければなりません。また、国際的な範疇でルールや法律を協調させなければなりません。そして私が非常に危惧しているのは、世界中の健康志向団体が活発に行われている、反アルコール活動です。この先5年間が彼らの戦略的な計画において重視している期間であり、私たちはこれにどう対応するか考えなければなりません。
 
ここで生産量についての考察を述べましょう。すみません、最新のデータではなく、今は少し変わっているかもしれませんが、世界のブドウ畑の面積は7~800万haでほぼ8000万トンのブドウを生産しており、50%強がプレスされ、50%弱がプレスされない、つまり食用ブドウやレーズンのようなものとして消費されています。プレスされるブドウの内90%がワイン醸造に使われます。年にもよりますが、最終的に270~300万hlのワインが造られます。これが私たちが話しているものの規模感で、非常に大きな生産量を誇っています。もしこれが今後、増加したらということを考えていきましょう
 
現在、非常に大きく発展しているものの1つにサステナビリティの問題があります。これは主要なテーマの1つです。これは非常に興味深く、流行に沿うものであり、現代的でもありますが、ワイン生産にも間違いなく影響を与えることです。なぜならこの10~15年の間、私たちはみなオーガニック、ビオディナミ、そして今はサステナビリティにも注目してきています。私たちがワイン造りに取り入れてきたことはたくさんありますが、とりわけオーガニックワイン生産が代表的ですが、この生産法はサスティナブルではありません。これは非常に困難な問題で、私たちはよりオーガニックの道へと進むべきか、サステナビリティ保つべきかを考えて決断しなければなりません。これらは相容れない考え方です。そしてこれは多くの生産者にとって非常に複雑な状況になっていくでしょう。
 
ワイン醸造において、私たちは醸造と栽培と経済を独立して見ることはできず、それぞれにつながっており直接的な影響を及ぼしています。そしてここでの疑問は、ドイツでは卵が先か鶏が先かなどと言いますが、何が一番に最初に来るのかということです。私たちは畑でブドウ栽培学的な側面からブドウを生産し、そのブドウからワインを造り、もしそれが市場で売れれば、特に将来性のある市場で売れるのが大事ですが、消費者が求めていることが分かり、それによって市場で売れる製品を造るために栽培や醸造で何をすべきかが分かります。これは、私たちが過去にやってきたものとは全く異なるアプローチです。
 
しかし残念ながらもうあまり時間がなく、すべてのスライドを見せることができませんが、ブドウ栽培において、すべてが相互作用しているので私は醸造的な側面以外にも注目していますが、非常に重要なのはデジタル化の問題です。早い段階で何をすべきか知るために、気象担当部門と農家の間のコミュニケーションが必要です。また、単一畑を観測することも、小区画の熟度や健全度をチェックするのに役立ちます。当然ドローンも畑の中のある一部分における、非常に限定的な、小さいスケールの影響を知るために、どんどんと使われるようになっています。しかし忘れてはならないのが、セラー内だけでなく畑の上でも水、廃物、副産物、ごみなどの管理を最適化することです。私たちはうどん粉病やべと病、干ばつ、干ばつは将来的に大きな問題となりますが、などに耐性のある新しい品種を探しています。また、新しい殺菌剤、殺虫剤分子も探しています。これによって可能になるのは、ただ効果的というだけでなく、ある種の要求に対して敏感になることもできます。
 
ワイン醸造を続けていくと、デジタル化は以前にも増して重要になっていくでしょう。デジタル化は期待する製品のタイプに応じて判断を下すためのツールとして使用できます。これは経済学で言うところのディシジョンツリー的なものとなり得ます。ディシジョンツリーは市場で必要とされるものです。それから畑において何が可能なのか、そして私たちが望む最終的な製品までの間のワイン造りにどのように活かせばよいか理解しなければなりません。特に物理的プロセスにおいて非常に大きく注目され、これまでの伝統的な手法に代わる変化が起きています。例えばアルコール除去のためのメンブレンや酸性化、ガス管理などです。これらは非常に新しいアプローチで、需要に対して敏感で、特定的な手段であり、将来的には物理的プロセスはラベルの表示問題にかかわり、さらに重要になっていくでしょう。もし何かを加えることで何かを取り除く代わりに、メンブレンによって何かを取り除いた場合、将来的にもそれをラベルに書くはないでしょう。この物理的プロセスは何も加えてはないからです。続いて、以前はSO2をよく耳にしましたが、静水圧も保存に利用できます。フェノール性化合物を抽出するために超音波も利用できます。またこれもフェノール性化合物や色の強度を増加させるための前処理としてPEF(パルス電界)を利用できます。そしてまた、微生物の増殖をコントロールするためにも利用できます。またサーモヴィニフィケーションも利用できます。将来的にはラベル上の問題が生じると言いましたが、間違いなくこれはこれらのプロセスを市場に取り入れるのに一役買うでしょう。もし添加物を加えるなら、ラベルに書かなければいけなくなるが、物理的なプロセスはその限りではないからです。そしてまた、これは生産者にとって非常に面白い挑戦でしょう。もちろん新たな分析手法を見ることも忘れてはなりません。今後ブドウ品種の特定に、つまりその品種は本当にラベルに書かれた品種なのか、その製品の信ぴょう性の問題から品種だけでなく土地の特定にも役立つでしょう。これはラベルに書かれた事柄が本当に間違っていないか、本当に真実か決定する際の全く異なるアプローチとなるでしょう。
 
経済面では、規制の枠組みについてここで言及しなければなりません。私にとって一番重要なのはその中でも、製品の定義です。私たちが話しているもののティピシティ、信ぴょう性などと言いますが、これこそが私が最初にこの問題を挙げた理由です。今後自分の製品をどのように言い表したいかですか、どうように定義したいですか。また規制的な枠組みによってブドウやワインの生産の状況がどうであるかも知ることができます。そして、詐欺や偽造を避けることもできます。
さて私たちは色々なことが変化してきているということを見てきましたが、ワインの定義においては、最低でも8.5%のアルコールが必要です。EUのワイン法についての新しい議論では、例えば、より低いアルコールの製品を認めることを考えています。なぜなら、それこそが消費者が求めることだからです。私たちもこれに対応しなければなりません。経済の中でも、コスト削減、新しい基準に合わせるための、つまり新しい物理的プロセスを使って、製造時の廃棄物をより少なくするための、設備の最新化について見ていかなければなりません。また、トレーサビリティの問題も非常に重要です。市場に適応するというのは消費者の期待に応えるための今後のキーワードであり、すべての作業がこれまで以上に非常に密接にかかわっていると言いましたが、栽培と醸造が一体となって取り組まなければなしえません。
 
結論として、私たちはフェアトレードという経済的な期待があり、ワイン醸造のサステナビリティという環境に関する期待もまたあり、商品情報や品質、信ぴょう性の保証など消費者の期待もあります。そしてこれらは分けて考えることはできず、一体となって取り組まなければなりません。そしてここでちょっとした宣伝をさせてください。OIVは非常に重要な役割を担っています。なぜなら、ワイン分野の調和的発展のために私たちはこの場であらゆる問題について議論しており、このことが技術的、科学的な参考になるからです。また、国際的な取引において問題が起きた時にもOIVが役に立ちます。つまりOIVは規範となる組織と言えます。それゆえ科学的な土台や結果に基づいた、多様な専門家の集団による判断を下すことは非常に重要です。多くの学問領域によるアプローチと総意を得ることで大きく変わってきます。しかしまた、私はOIVのみが互いに協力して取り組む世界的な専門家組織も同然ということにも言及したいです。このことをまだこの集まりに参加していない人々に対するある種の勧誘として理解していただきたいです。あなたにとっても今後自分の要求や自分の意見を発信するチャンスがあるかもしれません。私たちは私たちが皆愛する同じ製品を造っているという意味で究極的には一緒に働いているのです。もしあなたがちょっとしたアイデアを持っているならば、今すぐに実行していただくことを願っています。そして何か疑問があるならば、ぜひ私に知らせてください。ありがとうございました。
 
 
 
【 Session 3 】
Bordeaux wines authenticity experience
        ボルドーワインの真偽を見極める
 代表講師 Tristan Richard
YOUTUBE:https://www.youtube.com/watch?v=H_sykiOHD_E&t=364s
      「ボルドーワインの、、、」は開始29:30より
 
 
みなさんこんにちは。ボルドーワインの信ぴょう性に関する私たちの取り組みを発表する機会をいただきありがとうございます。
 
ボルドーワインの信ぴょう性に関する経験ということで、この取り組みはボルドーのISVVとSCLのコラボによる発表になります。
 
私たちの研究所について少し説明します。私たちの研究所は分子生物学的な研究に重きを置き、ISVVのワイン醸造学部門の一部であり、National Metabolic Hubというフランスのメタボロミクス専門のプラットフォームとパートナー関係にあります。
 
当研究所では2つの主要な課題に取り組んでいます。1つ目はブドウやワインの化学的な分析に関することです。このトピックはワインの真偽の問題も含んでいます。2つ目は植物、人間の健康の観点からの免疫化合物の生物学的な動態です。
 
ご存知の通り、世界的にワインの偽造は主要な問題となっています。ワインの偽造の事例はたくさんあり、よくあるケースからRudy Kurniawanのような非常に洗練された事例まで定期的に新聞の見出しを飾っています。問題を提議するために、データを挙げましょう。ヨーロッパにおけるワインとスピリッツの偽造による直接的な損失は年間12億6000万€で、ワインは約5億€を占めています。間接的な損失も含めると年間約30億€と推定されます。したがって、偽造は大きな問題と言えます。
 
この問題に対応するために、ボルドーでは公的あるいは私的なパートナー、大学、研究所などとともにこの問題に特化した地域的ネットワークを構築しました。
 
当研究所ではワインの含有物に直接アプローチしています。ワインを分析するためにNMR- Nuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴)-やマススペクトリーに基づいた様々なメタボリックなアプローチが開発されていますが、私たちの手法は主にターゲットを定めたアプローチというよりもむしろより全般的なターゲットを定めないアプローチに興味があります。今日はNMRに関するまとめをプレゼンさせていただきます。
 
NMRメタボロミクスはよく知られた分析手法であり、2000年代から食品に対して用いられています。NMRはハチミツや果汁、オリーブオイル、そしてもちろんワインなど、多くの食品の真偽をみさだめるのに成功しています。
 
当研究所では、1mL以下の少量のワインから3つのNMRスペクトルをえて、50の化合物を直接的に定量するための単純で素早い、半自動的な手法を開発しました。この手法はサンプルの前処理から化合物の定量までおよそ1時間しかかかりません。
 
このNMRスペクトルを見てわかる通り、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸などの有機酸、メタノールやグリセロール、エタノールなどのアルコール類、カフェイン酸、没食子酸、カテキン、エピカテキンなどのフェノール性化合物、糖類などを含めたほぼ50の化合物を定量することができます。
 
これから2つの主要な問題に対するこの手法の実用方法をお見せします。最初はあらゆるヴィンテージの中から選んだ2つのボトルの比較です。次はそのワインの出自を分析するためにデータベースを使用します。
 
まずは2つのボトルの比較をします。ムートン・ロートシルドがあらゆるヴィンテージの中からa~cまでの3セットのワインとセラーからオリジナルのボトルを提供してくれました。SCLの協力を得て、私たちはOIVが定めた公式的の分析手法とNMRを比較しました。最初に、NMRはより少量のワインで、より少ない時間で済みます。しかし問題は、これらは同じ手法となり得るかということです。
 
このスライドは、2つの手法から得られた主要な化合物分析の結果です。左側はSCLで行われた公式の手法で、右側はNMRです。基準となるワインは☆マークで表され、疑わしいワインは△マークで表されています。2つの手法を使って同じ結果を得られました。明らかにaセットは本物のワインで、bとcは偽物です。NMRを使ってワインを比較することができました。
 
しかし2つのボトルを比べるうえで大きな問題となるのは、ボトル中での熟成です。この影響を考慮するために、長期間にわたるワインの熟成を評価する手法を取り入れ、この手法を発展させました。この手法を使うと2つのサンプル間の数多くの重大な差異を計算することができます。5つ以上の重大な差異が見られる場合にはそれらは違うワインとして考えます。この手法をヒートマップに表すと、2つのヴィンテージからなる20の異なる、ボルドーやブルゴーニュなどのフランス産ワインを比較できました。複数のワインの比較において黄色と赤で表されたものは別のワインで、緑のワインは似ていることを表します。見ての通り、2つのメドックと2つのボーヌという2セットだけが似ていると判断されました。しかし同じヴィンテージの同じエリアのワインが似ているというのは私にとっては驚きに値しません。
 
このパートの結びに、ヒートマップを使った古いヴィンテージのムートンの結果を示します。aセットはヒートマップ上で緑色に示されています。したがってaセットのワインは本物に似ていると言えます。他のワインはすべて黄色で表されており、別物だと言えます。以上がワインを比較するための基礎的な手法です。
 
今度は2つ目の問題を見ていきましょう。2つ目のケースでは、データベースを使ってワインの出自を管理したいと思います。このために当然ながらボルドーを多く含む1000以上のワインが登録されたデータベースが利用できます。このデータベースを用いてワインを比較します。まず、異なるヴィンテージのボルドーとブルゴーニュを比較します。約150のワインをNMRで分析し、PCAによって比較しました。PCAではボルドーワインを青、ブルゴーニュワインを黄色で表していま
す。2つのセットのワインは明らかに区別できます。交差検定表ではすべてのボルドーワインがボルドー産と、すべてのブルゴーニュワインがブルゴーニュ産と判別できています。
 
しかし、別のエリアをとってみると、判別はそう単純ではありません。この2つ目の例では、ボルドーワインとラングドックのワインを比較すると、PCAにおいて2つのエリアの部分的な重なりが観測されました。いくつかのラングドックワインはボルドーワインとして表示されました。もちろんこれはラングドックのワイン、テロワールの多様性も関係しているかもしれません。これらを識別するためにNMRを使用できるかどうか確かめるために、もっとたくさんのサンプルが必要です。そしてよりよいデータベースが必要です。データベース上のワインの数を増やすことが必要です。
 
もう一つの結果はボルドーワインの比較です。この例ではメドックとリブルヌの異なるヴィンテージのワインを比較しました。これらのワイン間では高い精度の識別ができました。PCAではメドックを青、リブルヌを紫で表しており、これら2つのエリアのワインを区別することができます。以上からNMRは同じ地域のワインでも識別することができます。
 
ヴィンテージに関しては、大きな問題があります。NMRでヴィンテージを識別するのは簡単ではありません。異なるヴィンテージの交差検定後の正解率を表した表を見てわかる通り、結果はヴィンテージ毎に大きく左右されます。しかし、ヴィンテージ間の年の差が大きいと、よく識別できることが分かると思います。例えば、2013年では識別率は年の差が大きくなるにつれて高くなっています。ヴィンテージを識別するとき、なぜこのような識別率の増加が起こるのでしょうか。識別はワインのビン熟成の影響を反映しているからと考えています。このことを確かめるために、古いヴィンテージから若いヴィンテージのものまでをPCAで比較しました。古いヴィンテージは青で、若いヴィンテージは黄色で表していますが、明らかに識別できています。例えば、若いヴィンテージはより多くのカテキンやエピカテキン、キシロースを含んでいます。これらはワインのビン熟成の指標としてよく知られています。NMRはヴィンテージを識別し、ワインの熟成という現象を記述することができました。
 
このパートの結びとして、ワインの出自に着目して、ボルドーの州間でのワインのヴィンテージの比較をお見せします。この研究では私たちはNMRを用いて6つのボルドーのシャトーから20近いヴィンテージのワインを分析しました。メドック2つ、グラーヴ1つ、リブルヌ3つです。PCAにおいて、見ての通り、この3者間ではよく識別ができています。メドックは青で、リブルヌは紫、その間にグラーヴがあります。
 
さらに私たちはそれぞれのシャトー間のデータも分析しました。2つのメドックと3つのリブルヌをNMRで比較しました。見ての通り、PCAにおいて2つの州のセットでは、まずメドックではすべてのヴィンテージで明らかな識別ができました。リブルヌのワインでは、すべてのヴィンテージを対象にすると識別はそこまで明らかではありません。しかし、2000年以降の最近のヴィンテージだけを対象にすると、非常に精度の高い識別ができました。これは特筆すべき結果です。なぜならメドックやリブルヌ内ではそれぞれ同じテロワールがあると言えるからです。結論として、これらの結果からNMRがワインのトレーサビリティに有用な解答を提供してくれるということに納得してもらえたら幸いです。
 
現在、私たちの研究所での疑問は、ワインの品質を分析するためにNMRを使用できるかということです。確かにNMRは最初に候補になる手法です。取り入れるのが簡単で、発展しており、少量のサンプルで済み、ブドウからワインまで適用でき、あらゆる規模のワイン造りの工程をフォローできます。したがってNMRはワインを分析するためのより一般的な方法として有用でしょう。NMRを用いた醸造工程の分析に関するいくつかの主要な結果をお見せします。これらの結果はスウェーデンの機関であるプロセス工学研究所の協力によって得られました。
 
最初の例として、この研究ではNMRによって、異なる成熟度のブドウからできたワインを区別できるかどうかを調べました。3つの異なる成熟度のブドウからなる単一品種のワインを対象にしました。適熟1週間前を緑、適熟を青、適熟後1週間を赤で表しました。NMRデータを基に統計的な分析を行い、ワインの比較にはPCAとOPLS-DAを使用しました。ここにいくつかの結果をお見せします。見ての通り、各成熟度を識別できました。そしてもっと重要なのは、これらの識別に関与する化合物を特定できたことです。
 
2つ目の例として、これは酵素処理です。NMRを用いて単一品種ワインにおける2つの酵素の効果を調べました。酵素を使用していないコントロールは緑で、enzyme1は青、enzyme2は赤で示しました。再度NMRを使用して、3つの群を識別できました。さらにはこの識別の根拠となる化合物を同定できました。もちろん糖はそうですが、ワインの性質を規定するような他の化合物もあります。私のプレゼンの結論として、NMRがワインの信ぴょう性やトレーサビリティに有効であるということ、そしてまたワインの品質もモニタリングできたということが分かってもらえたらと思います。
 
それではご清聴ありがとうございました。また、このワインの信ぴょう性に関する研究を可能にしてくれたすべての協力者に感謝を言いたい。とりわけJean Martin Soizic LacampagneはNMRを用いたワイン造りのモニタリングで一緒に取り組みました。ありがとうございました。